「巨大地震注意情報」「台風上陸」…“言葉の定義”の重要性

言葉がもつイメージは非常に大きい。そんなことをあらためて強く感じる2024年の夏です。

初めての「巨大地震注意情報」発令

みなさまご存じの通り、この夏に「南海トラフ巨大地震注意情報」が発表されました。正式名は「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」。はっきり言って、わたしにとって非常に聞きなれない言葉でした。「宮崎県で起きた地震のあとになんで南海トラフ?」という意外な思いとともに、「南海トラフ」「巨大地震」という非常にインパクトのある言葉が使われていて、混乱した方も多かったのではないでしょうか?

かくいう私もその一人。その日の夜、ガソリンを満タンにしに行き、ついでにイオンで食料などを買い足しました。日頃の備蓄に関して、足りていなかったということは反省点の一つです。がしかし、よくよく調べてみると、この臨時情報は決して地震を予知するものではないし、気象庁も「地震は予知できません」とはっきり言っています。

じゃあなんなんだい?ということで少し詳しくみていきましょう。

 

「南海トラフ地震臨時情報」とは?

とりあえず内閣府の防災情報ページを見に行きます。そこにはこう書いてありました。

「南海トラフ地震臨時情報」は、南海トラフ沿いで異常な現象を観測された場合や地震発生の可能性が相対的に高まっていると評価された場合等に、気象庁から発表される情報です。

(内閣府「南海トラフ地震臨時情報とは?」)

南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表された場合は、事前の避難は伴いませんが、日頃からの地震への備えの再確認に加え、地震が発生したらすぐに避難できる準備をしましょう。

(内閣府「4.南海トラフ地震臨時情報が発表されたら何をすればいいの?」)

続いて気象庁のページをみると、どうやら「南海トラフ地震臨時情報」と「南海トラフ地震関連解説情報」の二種類があるようです。

 南海トラフ地震に関連する情報の種類と発表条件

内閣府、気象庁のページに詳しく書かれているので、特に内閣府のページでは「警戒」「注意」「調査中」などの比較のイラストもあり、一度見ておくのもいいでしょう。

そして、先ほどの気象庁のページの一番下にはこう書かれていました。

○南海トラフ沿いで異常な現象が観測されず、本情報の発表がないまま、突発的に南海トラフ地震が発生することもあります。

○地震発生の可能性が相対的に高まったと評価した場合でも南海トラフ地震が発生しないこともあります。

○南海トラフ地震の切迫性は高い状態にあり、いつ地震が発生してもおかしくないことに留意が必要です。

(気象庁 https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/nteq/info_criterion.html

いかがですか?

私は、ぶっちゃけ、「なんとでも言えるよな」と思うようなふわっとした情報だと感じました。

専門家や研究者の方々が多くの時間とお金を費やし、きっと日本国内に住む多くの方々の命を救うためにと貢献されているのだとは思いますが、対象テーマが「予知できない地震」である限り、こういった表現にとどまるのだと思います。そんななんとでも言える情報に、「巨大地震注意」「巨大地震警戒」などといった各段階をわけているので、二重三重にふわっともやっとした印象が否めません。

「台風」の定義

つづいて、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)のあとにやってきたのが、台風10号です。当初の予想では「非常に強い」台風で、近畿地方直撃コースでした。がしかしこれでもかというほど動きが遅く、そのうち進路は九州からの日本横断コースへ。九州上陸後には中心気圧が990hPaとほぼ1000hPaとなりました。にも関わらずどのニュースも「台風10号が…」「台風10号の影響で…」「最大限の警戒が必要」などまだまだ安全には程遠い印象が伝えられます。昭和世代から言うと、昔であれば規模としては弱まってきたことをしっかり伝えていたように思うのですが、油断させて何かあってはいけない、責任が取れないからでしょうか。どこまでも「警戒が必要」です。

じゃあそもそも「台風」って何をもって台風というのか?という疑問が湧き、ざっくり調べてみました。

台風とは

熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼びますが、このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17 m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。

気象庁「台風とは」より

なんと中心部分の気圧は関係なく、低気圧域内の最大風速が約17m/s以上のものだったのです。てっきり中心気圧が重要かと思っていました。そして九州上陸後あたりの情報をみると「最大風速18m/s」。ぎりぎり「台風」の定義におさまっています。

つまり、メディアなどが「台風10号」と表現し続けることも、台風10号に関連した大雨による被害には気をつけるよう注意喚起をしていることも間違いではない。予報円の大きさも一見、台風そのものの威力のように見えるけれど、「この円のどこかに台風が進む」という意味なので、大きければ大きいほどどこにでもいく可能性があるというだけ。しかし、画面上で常に視界に入ってくるテロップや進路の予報円の大きさ、繰り返しアナウンスされる言葉で誤解を生みかねません。間違いではないけれど、報道として少し不親切さを感じます。

台風の強度の測り方

じゃあ台風の強度や、必須条件の最大風速はどうやって測るのか?これまた調べていくとまた知らないことがわかりました。

詳細は省きますが、興味がある方は各リンク先を読んでみてください。

昔は危険な方法で測っていたことがわかる 気象のなぜ+50 25.台風の強度はどうやって測る?

台風の語源についても書かれている『初めて名前が付いた台風 “室戸台風”』

日本国内において用いられる四種類の 風速 (平均風速・最大風速・瞬間風速・最大瞬間風速)について

ちなみに台風情報で用いられるのは「最大風速」。これが約17m/s(厳密には17.2m/s)以上になれば台風。m/sは一秒間に何メートル大気(空気)が移動するか。ということでこちらのリンク先もどうぞ

「風速○○m/s」ってどれくらい?

新たに台風11号が発生というニュースがありましたが、2024年9月1日22時55分のXの写真。

右下の情報ではまだ「最大風速」が15m/sなので「熱帯低気圧」となっていますね。ただ、記事の文章はなぜかもう台風11号発生としているのは厳密に誤りなんじゃないか?というちょっとめんどくさい見方ができるのも、これまでに書いてきた「台風」に関する知識のおかげです。

台風の恩恵

台風発生となると何かと被害などマイナスなイメージが先行しますが、自然界でみると恩恵を受ける場合もあります。その代表的なものがサンゴ。海水温が高い状態が続くと白化し、さらには死滅することも。そうなるとサンゴ礁に住む生きものが減り、その生きものを必要としていた生きものも減少するというように生態系のバランスが崩れていきます。そこで台風が果たしくれる役割は強力な風による海水のかき混ぜ効果。ただし、規模が大きすぎるとそれはそれでサンゴに与える影響もあるため、適度な台風であることが望まれます。今年2024年はまだ沖縄方面に台風が来ていないとのことでサンゴの状態を心配する声もあります。台風の語源が万葉集にも書かれているように、特にこの日本という島国にとって台風は切っても切れない自然現象と言えます。

恐ろしい台風、でも実は恩恵を受けることも?

白化したサンゴを”救った”台風

ただ「現実」を認識すること

これまで地震と台風に関する言葉の定義をみてきましたが、いかがでしょうか。もやっとふわっとすることはありますが、そういう定義をされているということを理解しておけば、ニュースの見方も変わってくるのではないでしょうか。

そうなると、テレビをただただ見続け情報を受け取るよりも、気象衛生ひまわりのサイトやその他で情報を得たり、自分で調べることができます。住む土地、働く土地の特性によっても対策は変わってくるでしょう。地震は突然やってきますが、台風であれば事前に対策できることも多いのではないでしょうか。

言葉の「イメージ」に惑わされすぎないように、定義を理解しておくこと。そして「事実」と「解釈」をごっちゃにしないで、必要以上に悲観的にも楽観的にもならないこと。これは何ごとにおいても大切だと思います。

秦由佳さんという方が非常にわかりやすい簡単な方法を伝えられています。両手を使って行うワークで、左手、右手はどちらでもいいんですが、例えば左手を「事実」、右手を「解釈」と分けます。起きている現実や事実は左手、それに対する解釈を右手とします。さて自分は左手の事実に対してどんな右手の解釈を重ねているのか。不安や恐怖、混乱に陥った時に、ちょっと冷静になってその右手の解釈を外してみたらどういった現実や事実が見えてくるのか。シンプルですがとても効果があると思いますので、ぜひ試してみてください。

また、もやっとふわっとした情報に対して「はっきりしてほしい」「決めてほしい」という気持ちになりがちですが、本当にそうでしょうか?国や公的機関がそのようなもやっとふわっと情報でしか提示していないのであれば、あとは私たち自身が自分で考え判断できるということ。もちろん、自分さえ良ければいいという利己的すぎる行動はどうかと思いますが、社会的なイメージを恐れて個人の判断を他に委ねるのではなく、個人の自由には自己責任が伴うことを受け入れ、自分で考え判断することが大切だと思います。

ただ現実をそのまま認識して、できる対策をとり、毎日をいきいきと過ごしていきたいですね。

 

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YUMI

水の流れや草やいきものが好きで、里山保全や環境改善の活動を継続中。チェーンソー作業従事者特別講習を受講し資格取得。関心のあることを突き詰めていき、わかりやすく人に伝えていくことを模索しています。
Illustrator / Photoshop / Piano / Actor /セルフケアマスター / 編み物 / 刈払い機 / チェンソー

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